箱根湯本、須雲川を見下ろすリゾートホテルにて、ダイニングの個室に絹ガラスをご採用頂きました。水引と花をモチーフに選んだ意匠のテーマや、職人の技についてご紹介させて頂きます。
| コンセプトメイク
今回、デザイナーからの要望は、紫色の「染め」と「金彩意匠」で華やかなイメージにして欲しいというものでした。「はつはな」の由来を調べると、箱根湯本にある鎖雲寺には江戸時代から語り継がれている物語があり、そこに登場する女性であることが分かりました。後に脚色され、浄瑠璃や歌舞伎の演目「箱根霊験躄仇討」として有名になったそうです。
「箱根霊験躄仇討」
仇討ちのために旅ををする夫婦、勝五郎と初花。途中、病で下半身が動かせなくなった夫を躄(いざり)車で百里以上を曳いて歩き、湯治にとたどり着いた箱根では滝に向かって快復を祈り続けたのですが、治らぬうちに敵と相まみえることに。夫に代わって決死の覚悟で立ち向かうが、無念にも返討。霊となった初花はその後も滝に祈り続け、ついには勝五郎の脚が快復。仇討ちを成功させる。
ホテルの名前は「はつはな」 。あえてひらがなで表記することでやわらかなイメージにしているとのこと。
そして、ダイニングの名前は「はなゑみ」、「花咲み」と書き、咲いた花のような華やかな笑みを意味しています。
2人が出会った当時には、食卓を囲むあたたかな笑顔があったのかもしれません。その後夫の仇討ちの為に苦難を重ね、生涯をかけ尽くし続けた初花。芯の通ったしなやかな強さを持つ女性像。箱根湯本を訪れると、時代を越えて彼女を讃えたいという想いが人々の中にあるように感じます。
「初花の華やかな笑顔が再びよみがえるようなダイニング」
そんなイメージがコンセプトのベースとして浮かんできました。
躄車を曳く紐は文字通りの二人の絆であり、同時に初花の美しさをも感じさせる強さを象徴するものだと感じました。そのイメージから「結び」を連動させ、水引を重ねて、花を咲かせるデザインが完成。桜のような五弁花や、蓮や菊などのモチーフを試作していきました。
| 染めと金彩
当初、染めは青みのある紫で下からの暈しでした。コンセプトに合わせ、あたたかみのある赤みの紫に変更。金彩を華やかに映えさせるために濃い色目にした代わりに、上下を白残しにすることで印象が軽くなるよう設定をしています。
白から濃色への暈しは1色に見えるように数色の染料を用意。つなぎ目のない染めは高い技術と経験が必要になります。
水引をイメージした金彩は、型を使用する箔押しでかっちりとした繊細な線で表現しています。均一に見える中にも、微妙な色差や光沢の加減をあえて加え、生地へのなじみや、空間へ調和するような工夫が凝らされています。
グラフィックでのすり合わせが固まってきたところで、小さなサンプルガラスを作成。染めの色味や金彩の質感を確認します。絹ガラスは両面からの使用が想定されるので、裏面からの見え方も確認頂きます。
| ご納品
納品・施工当日は大雨となりましたが、現地のガラス職人様方により無事に搬入。ぴったりと納まりました。窓の外いっぱいに見える樹々の緑が、ちょうど生地と補色に近い色の時期で、とても美しく印象的でした。
「はつはな」は全室露天風呂付き客室でプライベートリゾート感を味わえる宿。季節を愛でる料理が楽しめるダイニング「はなゑみ」には、色彩や香りなど五感で季節を味わう体験があります。箱根湯本へご旅行の際にはぜひお立ち寄りください。